決まりそうで決まらない。胸の奥がざわっとしたら
見積もりは出した。相手は手元のメモを見つめたまま、言葉を探している。空調の音だけが聞こえる——そんな時間、ありますよね。
ここでは、心が波立ったときに静かに態勢を立て直すための小さな手順を置いておきます。大きな技術ではなく、机の上でできることだけ。
① まずは“戻る”。席を立たなくていい90秒
- 4-6呼吸 × 5回:4秒吸って、6秒ゆっくり吐く。肩はそのまま落としておく。
- 感覚をひとつ拾う:足裏の重さ、指先の温度、椅子の縁。どれか一つで十分です。
- 気持ちに仮の名前:「いま、焦りは3/10」。数字はざっくりでかまいません。
呼吸でブレーキ、感覚で「いま」に戻り、名前で気持ちを暴れさせない。やることはそれだけです。
② 言葉をやさしく“着替える”
心がきゅっと縮むと、言葉も尖りがち。棘を取るだけで、場の手触りは変わります。
- 「遅いな…」→ 「丁寧に比べてくれている」
- 「また値切りか」→ 「価値の確認をしている」
- 「否定された」→ 「材料がまだ足りないのかも」
- 「決めない人だ」→ 「社内の段差が高いのかも」
- 「時間の無駄」→ 「次の一歩を整える時間」
言葉を着替えるのは、自分を甘やかすことではありません。交渉の糸を切らないための整備です。
③ 詰めるより、道を描く。次の一手は質問で
- 決裁の地図を一緒に描く:「この後、どなたが関わりますか。私たちから何を渡せば進めやすいですか?」
- 選択肢を2つだけ:「A:導入範囲を絞る」「B:段階導入」。社内で通りやすいのはどちらでしょう。
- 沈黙の役割を決める:「30秒だけ整理します。私から先に要点を3行でまとめますね」。
こんな言い回しなら、角が立ちにくい
相手:「もう少し社内で検討を…」
あなた:「ありがとうございます。丁寧な検討は助かります。社内で必要な材料を一緒に揃えさせてください。決裁の流れ、差し支えない範囲で教えていただけますか。」
相手:「価格が気になっていて」
あなた:「率直にありがとうございます。投資対効果の表に置き換えてみます。初期は範囲を絞る案と段階導入案だと、どちらが社内で通りやすそうですか。」
おわりに——結果だけがすべてじゃない日もある
うまく進まない時間ほど、自分に厳しくなりがちです。けれど、呼吸をひとつ長くして、言葉をひとつやわらかくして、次の一歩を静かに描けたなら——それは十分な前進です。
商談は勝負というより、橋をかけ続ける仕事に近いのかもしれません。今日かけた一本は、明日のあなたをきっと助けます。
短い根拠(PubMed)
- Arnsten AFT. Stress signalling pathways and prefrontal cortex. Nat Rev Neurosci. 2009; PMID:19455173
- Pessoa L. Emotion–cognition interactions. Nat Rev Neurosci. 2008; PMID:18401780
※本記事は一般情報です。実務の判断は社内規程・法令・契約条件に従ってください。
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