本ページは、精神科医・畠山博行(マインドルート代表医師)の監修のもとで執筆されています。

「調子がいい日は、何が違う?」― パフォーマンスを支えている“身体感覚”の話 ―

「調子がいい日は、何が違う?」

― パフォーマンスを支えている“身体感覚”の話 ―

「今日は集中できた」
「人と自然に話せた」
「いつもより落ち着いて対処できた」

私たちは日常の中で、こうした“調子の良さ”や“パフォーマンスの違い”を感じることがあります。
仕事、勉強, 家事、スポーツ、人間関係、育児——分野は違っても、「うまくいく日」と「うまくいかない日」があります。

近年の心理学や神経科学の研究では、こうしたパフォーマンスの安定性に「身体の内側の感覚(内受容感覚)」が深く関わっていることが分かってきました 12。パフォーマンスの安定と内受容感覚との関連について話すと、次のような質問をされることがあります。

Q1.「パフォーマンスって、気合いや能力の問題じゃないんですか?」

相談者

調子がいい・悪いって、結局はやる気や能力の問題だと思っていました。身体の感覚が関係するってどういうことですか?

専門家

とても自然な疑問ですね。
実は私たちの脳は、常に身体の状態を読み取りながら判断や行動を調整しています。

心拍、呼吸、筋肉の緊張、内臓の動きなど——
こうした「身体の内側の情報」をまとめて内受容感覚(interoception)と呼びます。

研究では、

内受容感覚が適切に働いている人ほど

  • 集中力が安定しやすい
  • 感情の切り替えがしやすい
  • プレッシャー下でも判断が極端に崩れにくい
    ことが示されています 34。

つまりパフォーマンスは、
「能力 × 身体状態を調整する力」
で決まっているとも言えるのです。

Q2.「緊張や不安が強いと、うまくいかなくなるのはなぜ?」

相談者

緊張すると頭が真っ白になったり、普段できることができなくなります。これも身体感覚と関係ありますか?

専門家

はい、とても深く関係しています。

不安や強い緊張が高まると、脳は「危険かもしれない」というモードに入ります。
このとき起こるのが、

心拍数の上昇
呼吸の浅さ
筋緊張の増加
といった身体反応の変化です。

内受容感覚がうまく働いている場合、
「今、少し緊張しているな」
と身体の変化を“情報”として認識できます。

一方、トラウマ体験などがあると、

身体感覚が分からなくなる
逆に強すぎて圧倒される
ということが起こりやすくなります 56。

その結果、
不安 → 身体反応 → さらに不安
というループが起こり、パフォーマンスが下がりやすくなるのです。

Q3.「身体を感じると、逆に不安になる人もいますよね?」

相談者

「身体を感じましょう」と言われると、余計につらくなる人もいる気がします。

専門家

とても大切な視点です。
実際、トラウマのある方にとって、身体感覚に注意を向けることが負担になる場合があります 7。

そのため、今の心理支援では

無理に身体感覚に集中しない
安全感が保たれる範囲で
外界(音・視覚・姿勢)から間接的に始める
といった段階的なアプローチが推奨されています 8。

「身体を感じること」はゴールではなく、
安心して日常を営むための“手段のひとつ”なのです。

Q4.「身体感覚が整うと、生活はどう変わるんですか?」

相談者

仕事以外だと、どんな変化があるのでしょうか?

専門家

研究や臨床からは、次のような変化が報告されています。

  • 人との会話で言葉が出やすくなる
  • イライラや落ち込みからの回復が早くなる
  • 休むタイミングが分かりやすくなる
  • 楽しい・心地よい感覚に気づきやすくなる

つまり、
「頑張るため」だけでなく、「消耗しすぎないため」にも
身体感覚は大切なのです 9。

最後に:一人で取り組まなくていいという選択

身体感覚と心の関係は、とても繊細です。
特に、これまでつらい経験をしてきた方ほど、
「感じること」そのものが難しい場合があります。

オンラインカウンセリングでは、

今の状態に合わせたペースで
無理のない形で
言葉と身体の両方を大切にしながら
サポートを行うことができます。

「最近、調子が安定しない」
「理由は分からないけれど、疲れやすい」
そんな小さな違和感からでも、相談してみてください。
あなたの生活やパフォーマンスを、
内側から支える手助けができるかもしれません。

参考文献(脚注)

  1. Craig, A. D. (2009). How do you feel—now? The anterior insula and human awareness. Nature Reviews Neuroscience, 10(1), 59–70. ↩
  2. Barrett, L. F., & Simmons, W. K. (2015). Interoceptive predictions in the brain. Nature Reviews Neuroscience, 16(7), 419–429. ↩
  3. Dunn, B. D., et al. (2010). Listening to your heart: How interoception shapes emotion experience. Psychological Science, 21(12), 1835–1844. ↩
  4. Paulus, M. P., & Stein, M. B. (2010). Interoception in anxiety and depression. Brain Structure and Function, 214(5–6), 451–463. ↩
  5. van der Kolk, B. (2014). The Body Keeps the Score. Viking. ↩
  6. Khalsa, S. S., et al. (2018). Interoception and mental health. Biological Psychiatry, 83(4), 298–310. ↩
  7. Price, C. J., et al. (2017). Interoceptive awareness in trauma-related disorders. Journal of Traumatic Stress, 30(3), 237–245. ↩
  8. Ogden, P., Minton, K., & Pain, C. (2006). Trauma and the Body. Norton. ↩
  9. Mehling, W. E., et al. (2012). The Multidimensional Assessment of Interoceptive Awareness (MAIA). PLoS ONE, 7(11), e48230. ↩

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