本ページは、精神科医・畠山博行(マインドルート代表医師)の監修のもとで執筆されています。

EMDRは発達障害・HSPにも効果ある?オンライン対応の可能性と安心できるセラピストの選び方

HSPやASD/ADHD傾向があっても、EMDRは受けられる?

読者の声: HSP(環境刺激に敏感に反応しやすい特性)や、ASD/ADHDの傾向があります。
日常の小さな刺激にも強く反応してしまい、過去の嫌な経験も頭から離れません。
EMDRという療法は、こうした特性がある人にも効果がありますか?オンライン対応は可能でしょうか?

結論:個別評価は必要ですが、応用は広がっています

EMDR(眼球運動による脱感作と再処理法)は、もともとPTSDの治療として発展してきた心理療法ですが、 近年は発達特性(ASD/ADHD)や高感受性(HSP)をもつ方への応用も報告が増えています。 例えば、行動上の課題を伴うトラウマに対して成人の境界知能〜軽度知的障害領域で有効だったとする研究(Versluis et al., 2025, PMID: 40387140)があり、 選択性緘黙発達に伴う複雑性PTSDへ適用した症例報告の蓄積(Mesman 2024/Rolling 2024, PMID: 39408173)も見られます。

ただし、全員に同じやり方が最適とは限りません。感覚過敏や予測困難への苦手さがある場合は、 進め方をより構造化(手順の見通し・刺激の強度調整・休止合図)し、安定化スキル(呼吸・グラウンディング等)を 事前に確認してからトラウマ処理段階へ進むのが一般的です。

オンラインEMDRは可能?

ビデオ通話を用いたオンラインEMDRは、コロナ禍以降に実践が広がりました。 二側性刺激(二点タッピング/視線誘導/交互音など)は画面越しでも実施できます。 一方で、安全性の確保(中断の合図・体調変化時の対応・終了後の過ごし方)を合意し、進行の予測可能性を高めてから開始することが重要です。

HSP・ASD/ADHD傾向の方にEMDRが役立ちやすいケース

  • 特定の記憶や場面で急に強い反応(動悸・フラッシュバック・回避)が出る
  • 生活や対人関係での過去体験の影響が続いている/思い出すと身体反応が強い
  • カウンセリングでの安定化スキル(呼吸・グラウンディング)がある程度使える

※パニック症状が強い時期や解離傾向が目立つ場合は、安定化・現在地の安全確保を優先し、 EMDRの処理段階はタイミングを見極めます。

実生活で使える3つのヒント

  • 安心の土台を先に:初回から無理に「過去の記憶」に触れず、関係づくりと手順の見通しを共有。
  • 感覚刺激の調整:セッション前後は静かな時間・暗めの環境を確保。イヤーマフ/アイマスクなどの「逃げ道」を準備。
  • グラウンディング(5-4-3-2-1法):今いる場所の安全感に意識を戻す、1分エクササイズです。
    1. 見えるものを5つあげる(例:時計、床、窓、カーテン、ペン)。
    2. 触れられるものを4つ確かめる(衣服の質感、椅子の背、足裏の床、手の温度)。
    3. 聞こえる音を3つ拾う(空調、外の車、部屋の物音)。
    4. 匂いを2つ感じる(なければ「好きな香り」を思い出してOK)。
    5. 味を1つ意識する(口の中の味/水をひと口でも可)。
    コツ:最初に足裏の重さを1呼吸分感じてから始め、最後にゆっくり吐く呼吸を1回。
    短縮版(約30秒):各段階を1つずつだけ行い、呼吸を長めに吐く。

安心できるセラピストを見つけるには

次のポイントを目安にしてください:

  • EMDRの公式トレーニング修了(学会・協会の認定履歴がある)
  • 発達特性への理解と支援経験(環境調整・刺激調整の実践)
  • オンライン実施の経験と、安全計画(中断手順・緊急連絡)を事前に説明してくれる

マインドルートでは、所属する心理士は全員EMDR Weekend 2(公式トレーニング第2段階)修了者が担当します。

参考:資格・トレーニングの概要(外部) | EMDR Institute:Basic Training日本EMDR学会:参加資格

※危機的状況(自他の安全が危ぶまれる等)の際は、地域の救急・公的相談窓口など適切な支援を優先してください。

よくある質問

何回くらいで効果を感じますか?
個人差はありますが、初期は安定化と準備に数回、その後の処理段階は記憶の数や反応の強さによって回数が変わります。 「短期で終える」よりも、日常生活での安定と安全を優先します。
オンラインEMDRで注意することは?
事前に中断合図・終了後の過ごし方を取り決め、開始前に短いグラウンディングを実施。刺激の強さは遠隔でも細かく調整できます。
HSPやASD/ADHDでも受けられますか?
はい。特性に合わせて手順の見通し刺激量の調整を行いながら進めます。個別評価のうえで、 EMDR以外のアプローチ(環境調整・認知行動療法・自律神経のセルフケア等)と併用することもあります。
Weekend 1/Weekend 2 とは?
EMDRの基礎トレーニングは一般に2段階(Part 1/Part 2、別名:Weekend 1/Weekend 2)+コンサルテーションで構成されます。 詳細は EMDR Institute、 国内の参加資格は 日本EMDR学会 をご参照ください。

参考研究(外部リンク)

  • Versluis A. et al., 2025:境界知能〜軽度知的障害成人のトラウマに対するEMDRの有効性報告( PMID: 40387140
  • Mesman E., Rolling T., 2024:選択性緘黙/発達に伴う複雑性PTSDへの適用( PMID: 39408173

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