📝 3分でわかる要点
- 緊張は“失敗の前兆”ではなく、体が「準備中」と知らせる合図。
- 呼吸→一言→次の一文の順で、司令塔(前頭前野)に席を戻す。
- 「ゼロにする」ではなく、高ぶっても戻れるを目標に、小さな場から段階練習。
まえがき:緊張は「準備のサイン」
本番前、胸がどきどきして手汗が出る。これは「失敗しそう」という合図ではありません。体がエンジンを温めているだけです。大事なのは、エンジンが強く回りすぎたときに、自分でスピードを落としてハンドルを握り直す方法を知っておくこと。ここでは、そのための簡単で現実的な手順を紹介します。
なぜ、緊張で頭が真っ白になるのか
扁桃体(へんとうたい)は、危険を見つけたときに鳴る「警報ベル」。一方で前頭前野(ぜんとうぜんや)は、計画したり注意を配ったりする「司令塔」です。緊張が強いと、ベルが鳴りっぱなしになって、司令塔の声が聞こえにくくなります。だから、計画どおりに話すのが難しくなるのです。
対策はシンプルです。ベルの音量を少し下げる(呼吸)→司令塔に合図を出す(一言)→次の行動だけに集中する(次の一文)。この順番にすると、頭の中の交通整理が戻ります。

読者:大事な商談ほど、声が上ずって内容が飛びます。

はたけ:異常ではありません。だからこそ、「司令塔に席を戻す手順」をあらかじめ用意しておきましょう。
ねらいは“ゼロにする”ではなく“すぐ戻る”。戻る順番は、呼吸→一言→次の一文。
30秒セルフチェック(はい/いいえ)
以下の3つができていれば、もう準備は進んでいます。全部「はい」でなくてもかまいません。1つずつ増やしていきましょう。
- 最初の一文を声に出して言える練習を、昨日しましたか?
- 手元の小カード(「挨拶→要点→着地」)を作りましたか?
- “戻る合図の一言”を一つだけ決めていますか?(例:ゆっくり/次の一文)
本番直前3分ルーティン(会場でできる)
道具はいりません。席に座ったままでも、廊下でもできます。大切なのは、手順を同じ順番で行うこと。毎回同じにすると、体が「この流れなら落ち着ける」と学習します。
- 呼吸:4–6呼吸 × 5回…4秒吸って6秒吐く。吐くほうを長めに、肩を落とす。体の“ブレーキ”を先に踏むイメージ。
- 言葉:一言フレーズを決める…「ゆっくり」「次の一文」「深く、長く」など。1つだけ繰り返す。合図は短いほど効きます。
- イメージ:最初の60秒だけ…挨拶→要点→小さな間。うまくいく想像よりも、やる順番に集中します。
※手の中に小カード(「挨拶→要点→着地」)があると復帰が速くなります。
家での練習ロードマップ(7日間)
いきなり大勢の前で完璧に話そうとしなくて大丈夫。小さく始めて、少しずつ難しくしていきます。失敗も練習のうち。戻る手順を覚えることが目的です。
- Day1–2:“一言”を決める → 鏡の前で挨拶だけ練習。声の高さと速さをゆっくりに。
- Day3–4:スマホで1分録画(挨拶→要点→着地)。自分で見返し、良かった点を必ず1つメモ。
- Day5:同僚や家族1人に見てもらう。感想は「良かった点を1つ」だけもらう。自信の芯を作る日。
- Day6–7:小さな会議で試す。うまくいかなくても、呼吸→一言→次の一文で戻る練習に切り替える。
90秒ミニ台本(冒頭用・コピペ可)
最初の1分が安定すると、その後がぐっと楽になります。下の“型”をそのまま使ってOK。自分の言葉に少し直せば、自然さが出ます。
挨拶(15秒):「本日はお時間をありがとうございます。私は◯◯の△△です。」
要点(60秒):「まず結論は◯◯です。理由は2点。①□□、②◇◇。ここまでで図の左側をご覧ください。」
着地(15秒):「詳細は後半で具体例をご紹介します。では最初のポイントから。」
うまくいかない時の“小さな手当て”
本番でつまずいても大丈夫。立て直すための最短ルートを覚えておきましょう。
- 声が震える:吐く息を先に長く→1拍の沈黙→低めで言い出す。最初の5秒だけでOK。
- 目が泳ぐ:スライド左上に一瞬視線固定→会場(左→中央→右)の順でゆっくり。目の動きは体の動きを落ち着かせます。
- 原稿が飛ぶ:手元カードへ“避難”→見出し3行だけを読み→戻る。止まるより、短く読んで進むほうが伝わります。
よくある質問(抜粋)
Q. 緊張をなくす音楽はありますか?
A. “自分で選んだ落ち着く音”が最優先。歌詞ありより環境音・遅めの曲。移動中に聴き、本番直前は呼吸に切り替えると集中が途切れません。
Q. 途中で詰まったら?
A. 「ここで1行だけ戻ります」と言葉にしてから、呼吸→カード確認→再開。沈黙は“間”にできます。
参考文献(最小限)
- Arnsten AFT. Stress signalling pathways that impair prefrontal cortex. Nat Rev Neurosci. 2009. PMID:19455173
- Laborde S, et al. Heart rate variability and self-regulation in sport. Front Psychol. 2017. PMID:29109716
※本ページは一般情報です。個別の診断・治療は、医療機関や公認心理師へご相談ください。
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監修:畠山博行(精神科医)/Mind Route(マインドルート)
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