本ページは、精神科医・畠山博行(マインドルート代表医師)の監修のもとで執筆されています。

「初戦に強くなる」科学的メンタル術:緊張・不安に負けない心と呼吸の整え方

初戦は、誰にとっても“未知との遭遇”。緊張でガチガチの心と身体をどう整えるか──科学の視点からユーモラスに紐解きます。

「初戦」と聞くと、スポーツの試合やプレゼン、初めての会議発表などを思い浮かべる方が多いでしょう。準備は万全。練習でもいい感じ。ところが本番直前になると、急に手汗が止まらず、頭の中は真っ白。まるで“緊張”という名のゴジラに襲われているかのような心境になった経験、ありませんか?

実はこうした反応、決して“自分だけ”ではございません。むしろ、初戦というのは「いつもの自分」を封印されやすい魔境です。今回はそんな“初戦パニック”を、心理・生理学の研究を手がかりに紐解いてまいります。

緊張は「うつる」──集団で発症する“心の風邪”?

まず驚くべきは、2025年に発表された国際論文『Factors related to the occurrence of mass psychogenic illness in schools』(PMID: 40537604)です。この研究では、ある学校で1人の生徒が気分不良を訴えると、まるでドミノ倒しのように他の生徒たちも「私も気持ち悪い」「めまいがする」と言い出す現象が報告されています。

要は、緊張や不安といった感情が、まるで“風邪のように感染”するということ。これ、実はスポーツや仕事の現場でも起きているのです。例えば、大きな大会でキャプテンが青ざめていると、チーム全体が沈んでしまう。会議室で前の発表者がテンパっていたら、自分の心拍も加速する──経験ありませんか?

このように、初戦における「集団の雰囲気」は、個人のパフォーマンスを良くも悪くも左右します。つまり、自分の緊張を和らげるだけでなく、“場の空気を整える”意識も大切なのです。できればチームの中で「緊張してても笑っていられる人」になれると、皆の安心感にもつながります。

「息してる?」──呼吸を侮るなかれ

初戦前、緊張で浅い呼吸になり、酸素が足りずにふらつく……というのもありがちな現象です。実際、2025年に発表された論文『Inspiratory Muscle Training in Adults With Cerebral Palsy』(PMID: 40539466)では、吸気筋(息を吸うための筋肉)を鍛えることで、精神的な安定性も高まることが示されています。

この研究は、脳性麻痺の方を対象にしたものでしたが、「呼吸の質」と「ストレス耐性」が密接に関係していることは、一般の私たちにとっても非常に参考になります。要するに、呼吸が浅く速いとパニックになりやすく、ゆったり深くなると“落ち着いた自分”が戻ってくるのです。

では、どんな呼吸が良いのか? おすすめは「ボックスブリージング」。4秒吸って、4秒止めて、4秒吐いて、4秒止める。これを1〜2分繰り返すだけで、かなり落ち着きます。まるで心のコンロの火を“弱火”にするようなものです。

脳みそに慣らし運転を──「初戦シミュレーション」のススメ

緊張しないコツ? それは“慣れる”ことです。脳は経験済みのことには比較的冷静に対応します。ですから、初戦が「初」にならないよう、事前に“模擬初戦”を何度も体験しておくのが有効です。

たとえば、以下のような方法はいかがでしょう。

  • 自宅で発表練習を録画し、自分の緊張ポイントをチェック
  • 家族や同僚を前に、軽いプレゼンの練習をしてみる
  • スポーツなら、ユニフォームを着て本番時間と同じタイムスケジュールでリハーサル

こうした「脳への慣らし運転」は、見た目よりもはるかに効果的です。脳が「あ、この場面、知ってるわ」と認識してくれるだけで、自律神経の暴走はかなり抑えられます。

自分を励ます言葉を、こっそりポケットに

緊張を味方に変えるには、ちょっとした“言葉の魔法”も有効です。よくアスリートが「セルフトーク」と呼ばれる自己対話を使いますが、これは日常の初戦にも応用できます。

たとえば……

  • 「こんなに緊張してるってことは、それだけ本気ってことだ」
  • 「緊張してても、ちゃんと足は地についてる」
  • 「笑ってれば、案外なんとかなる」

こうした言葉を、心の中で繰り返したり、手帳に書いて持ち歩いたりするだけでも、心の支えになります。「言葉」は脳の操作盤です。上手に使えば、焦る自分を一歩引いたところから見つめる“冷静な指令官”になれるのです。

まとめ──初戦は、試されるのは実力じゃなく“整え力”

初戦は、“未知”という名の相手との対話の場です。そこで求められるのは、「いかに心と身体を整えて立てるか」。うまくいくかどうか以上に、“整えて臨めたかどうか”が、次の成功につながっていきます。

呼吸、環境づくり、言葉、そしてちょっとしたユーモア──どれも立派な「戦略」なのです。皆さんも、ぜひご自身の初戦で、小さな“整え技術”を一つずつ試してみてください。あなたの中の「本番に強い人」が、そっと目を覚ましてくれるかもしれません。

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投稿者プロフィール

畠山 博行
畠山 博行精神科医/マインドルート代表医師
2020年 東海大学医学部卒業。総合病院、離島医療、児童精神科などでの診療を経て、現在は急性期医療から在宅医療まで幅広い臨床現場に携わりながら、子どもから大人までのメンタルケアにも従事。

試験前やスポーツ前の緊張、不安定な集中力、やる気の波などに対し、スポーツメンタルトレーニングの視点を取り入れた自律訓練法や認知的アプローチを活用。オンラインで気軽に受けられるメンタル支援サービス「マインドルート」を運営。

「禁煙したいけどやめられない」「本番に強くなりたい」「緊張を力に変えたい」といった悩みに寄り添い、心と行動を整えるサポートを行っている。

また、「子育てがきつい・しんどい」と感じる方の悩みにも、自身の育児経験をもとに等身大の視点で発信。PubMedなどの論文を通じた確かなエビデンスに基づき、信頼できる情報をわかりやすくコラム形式で届けている。

所属学会:日本精神神経学会、日本神経精神薬理学会、かながわ地域精神科医会

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